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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)1057号 判決 1976年8月23日

原告

吉川勝己

右訴訟代理人弁護士

福田強

外三名

被告

大矢忠

外五名

以上被告六名訴訟代理人弁護士

東亮明

被告

永田節

右訴訟代理人弁護士

大庭登

外一名

被告

中村弘道

外二名

以上被告三名訴訟代理人弁護士

吉田昭夫

主文

一  被告大矢忠、同牛沢義人、同崔敏圭、同永田節は原告に対し、連帯して、金一六六万八八七四円及び内金一五一万八八七四万円に対する昭和四八年一一月三日から、内金一五万円に対する本判決確定の日からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告大矢忠、同牛沢義人、同崔敏圭、同永田節との間に生じたものはこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余は右の被告らの負担とし、原告とその余の被告との間に生じたものは原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

(一)  主位的請求

(1) 被告らは原告に対し、連帯して金二一三万九八八二円及びこれに対する昭和四八年一一月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(3) 仮執行宣言

(二)  予備的請求

(1) 被告大矢忠、同牛沢義人、同永田節は原告に対し、連帯して金二二〇万五二〇二円及びこれに対する昭和四八年一一月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は被告大矢忠、同牛沢義人、永田節の負担とする。

(3) 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

(一)  被告全員

(1) 原告の主位的請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  被告大矢忠、同牛沢義人、同永田節

原告の予備的請求を棄却する。

第二  当事者の主張

一、請求原因

(一)  主位的請求原因

(1)(イ) 訴外株式会社日本住宅総合センター(以下センターという。)は、昭和四四年一二月以前より、いわゆるマンシヨン経営を、元本返済が確実でかつ極めて有利な利殖法である。すなわち、投資者はセンター所有のマンシヨンを購入し、センターはこれを第三者に賃貸して賃料を取得し、これを投資者に配当する、配当される賃料の額は利回り年約一割六分になり、極めて有利なうえ、投資者はマンシヨンの所有権を取得することとなるので、元本は極めて安全確実である旨週刊誌等で大々的に宣伝した。原告は、そのころ、住宅購入資金の調達に苦慮していたので、右のマンシヨン経営に興味を持ち、昭和四四年一二月、センターの本店事務所を訪れたところ、原告との応対にあたつた当時センターの第一営業部(第一住宅相談室)員であつた被告中村弘道(以下被告中村という。)は、原告に対し、前記宣伝の如く元本の回収は投資者がマンシヨンを購入、所有することにより、完全に担保されていること、利回りは月約一分四厘であることを説明し、原告を強く勧誘した。その後、原告が、昭和四五年二月一九日、更にセンターの本店事務所を訪れたところ、原告との応対にあたつた当時センターの第一営業部(第一住宅相談室)員であつた被告片瀬勝己、同河口洋一郎(以下被告片瀬、同河口という。)から右同様強く勧誘されたので、結局、同日原告はセンターとの間に、原告は二〇〇万円で別紙物件目録記載の建物(以下本件マンシヨンという。)を購入し、センターはこれを原告より賃借して第三者に転貸し、センターが右転貸により取得する賃料のうち一か月二万八〇〇〇円を原告に支払う旨のいわゆるマンシヨン経営契約を締結し、原告は二〇〇万円を支払つた。なお、右契約締結時に至り、被告片瀬、同河口より原告が右契約に基づき取得する本件マンシヨンの登記は、その本来の目的が権利保全であるので、本登記ではなく所有権移転請求権保全の仮登記であり、その順位は第一順位であることを告げられたが、一応妥当な説明であつたので、原告はこれを了承した。

(ロ) ところが、センターは、昭和四五年五月二八日、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下出資等取締法という。)違反等の容疑で大阪府警の捜索を受けるに至り、これを知つた原告が法務局において本件マンシヨンの登記簿を閲覧したところ、原告の所有権移転請求権保全の仮登記の順位は契約どおりの第一番ではなく第一三〇番であること、そして原告の取得した本件マンシヨンについての権利は担保としては全く無意味であることが判明した。その後、センターは、昭和四五年七月八日、東京地方裁判所において破産宣告を受けるに至つた。

(2) (被告らの責任)

(イ) 被告大矢忠、同牛沢義人、同崔敏圭(以下被告大矢、同牛沢、同崔という。)の責任

昭和四五年二月ころ、被告大矢はセンターの代表取締役として業務全般を統轄し、被告牛沢はセンターの取締役総務部次長として被告大矢を補佐して業務全般を統轄し、被告崔はセンターの業務を事実上支配していたものであるが、そのころ被告大矢、同牛沢、同崔は共謀のうえ、センターを利用して一般大衆から金員を騙取しようと企て、前記のいわゆるマンシヨン経営契約が真実は元本の返済及び賃料名義の利息の支払が確実ではないにもかかわらず、確実であるかの如くセンターをして週刊紙等で宣伝させ、更に原告に対してはセンターの従業員である被告中村、同片瀬、同河口(以下被告中村らということがある。)をして同様な説明、勧誘をさせ、元本返済が確実であると原告を誤信せしめたうえ、センターとのマンシヨン経営契約を締結、二〇〇万円の金員を出捐せしめたものであるから、被告大矢、同牛沢、同崔は民法七〇九条により、原告が被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

(ロ) 被告大矢、同牛沢、同崔を除くその余の被告らの責任

(a) 被告野呂敏美、同宇山康一、同五月女博(以下被告野呂、同宇山、同五月女という。)、同中村、同片瀬、同河口はいずれもセンターの従業員としてマンシヨン経営契約の勤誘、締結等の事務を行つていたものであるから、相当の注意を払えば、被告大矢、同牛沢、同崔の右(イ)の詐欺の意図を看破し、これを防止しえたにもかかわらず、これを怠り右の被告大矢らの詐欺に加担したものであるから、民法七〇九条により原告が被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

(b) また、

① 被告中村らは宅地建物取引業者または宅地建物取引主任者ではないが、センターの従業員としてセンターの業務である不動産の売買、仲介等を現実に取り扱つていたものであるから、購入者等の利益を目的とする宅地建物取引業法並びに一般消費者の利益の保護を目的とする不当景品類及び不当表示防止法の趣旨に従い取引の重要事項の説明、不当表示の避示等の高度の注意義務を負担していたものというべきである。しかるに、被告中村らは前記(1)(イ)のように原告に対し虚偽の説明、不当な勧誘を行い、原告をしてマンション経営契約を締結せしめ、その結果原告は後記損害を被つたが、これは被告中村らの故意、少なくとも前記の注意義務に著しく反した重大な過失に基づくものであるから、被告中村らは民法七〇九条により原告が被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

② 本件当時、被告野呂はセンターの総務課長、被告宇山は第一営業部長、被告五月女は第二営業部長、被告永田節(以下被告永田という。)は取締役の地位にそれぞれあり、いずれもセンターに代わりセンターの従業員であつた被告中村らを監督していたものであるから、右①の被告中村らの不法行為について、民法七一五条二項により、原告が被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

(3) 損害

原告は被告らの不法行為により、次のとおり合計二一三万九八八二円の損害を被つた。

(イ) 原告の出資金残額

一五一万八八七四円

右は原告がマンシヨン経営契約を締結した際に出捐した二〇〇万円から、センターより原告に支払われた家賃名義の金員合計六万五三二〇円及び破産財団より原告に支払われた配当金合計一万五八〇六円(但し、内金三万九六〇〇円については昭和五一年夏に配当される予定である。)を控除した残額である。

(ロ) 被害回復のために要した費用 二万一〇〇八円

右は、原告が他の被害者とともに損害の回復を図るためセンターの被害者同盟を結成した際に、同盟に対して出捐した事務委託費五一六八円及び破産申立を委任した弁護士に対する報酬一万五八四〇円の合計額である。

(ハ) 弁護士費用  六〇万円

原告は本訴の遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、報酬として六〇万円を事件完結時に支払う旨約した。

(4) よつて、原告は被告らに対し、民法七一九条に基づき連帯して、損害金二一三万九八八二円及びこれに対する本件不法行為ののちである昭和四八年一一月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  予備的請求原因

(1) 本件当時、被告大矢はセンターの代表取締役として、被告牛沢、同永田は取締役として、いずれもセンターの業務の執行をしていたものである。

(2)(イ) センターは昭和四三年、四年ころから、投資者はセンター所有のマンシヨンを購入して投資者の名義で登記をし、センターはこれを第三者に賃貸して賃料を取得し、これを投資者に配当するという、いわゆるマンシヨン経営契約の営業を行い、元本は絶対安全、配当も非常に有利である旨週刊紙等で宣伝して投資者を募集していた。

(ロ) マンシヨン経営のうち、投資者(顧客)が複数である場合は一般にマンシヨン共同経営といわれていたが、本来マンシヨン共同経営が考案された理由は、売れ残りのマンシヨンの一室を売却しやすいようにするため、少額の資金しか持たない顧客に対し、複数でマンシヨンの一室を購入させることにあつた。したがつて、当然、マンシヨンの一室について共同経営者となりうる顧客の数は、その出資者の合計額が右マンシヨンの市場価格以下でなければならない、との制約を受けるものである。

(ハ) ところが、センターは昭和四四年ころから、マンシヨン共同経営と称し、マンシヨンの一室に多数の仮登記をする方法を利用して、多数の投資者を募集し、マンシヨンの市場価格の何倍にも相当する出資金を集め、また出資者の仮登記をするだけの目的で新たにマンシヨンの一室を購入したり、現実に取得する賃料の何倍もの金員を賃料名義で出資者に支払う等の行為をするに至つた。

(ニ) そのため、センターは昭和四五年五月には、詐欺及び出資等取締法違反の容疑で大阪府警の捜査を受け、同年七月八日には東京地方裁判所において破産宣告を受けるに至つた。

(3) 被告らの責任

(イ) センターの業務執行にあたつていた被告大矢、同牛沢、同永田は、出資金の元本の返済が不可能になることを知悉しながら、右(2)(ハ)のようなマンシヨン共同経営の経営形態を継続し、その結果原告に後記のような損害を被らせたものであるから、同被告らは商法二六六条ノ三より原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(ロ) また、被告大矢はセンターの代表取締役として、被告牛沢、同永田は取締役として、いずれも他の取締役の行為を監視し、もつて第三者に損害を与えないよう未然に防止すべき義務あるところ、右被告らは右義務を著しく懈怠し、その結果原告に後記のような損害を被らせたものであるから、同被告らは、商法二六六条ノ三により原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(4) 損害

原告は次のとおり、合計二二〇万五二〇二円の損害を被つた。

(イ) 出資金残額

一五八万四一九四円

右は、原告が昭和四五年二月一九日センターとの間で本件マンシヨンについてマンシヨン経営契約を締結し、出資金として支払つた二〇〇万円から、破産財団より原告に支払われた配当金合計四一万五八〇六円(但し、内金三万九六〇〇円については昭和五一年夏に配当される予定である。)を控除した残額である。

(ロ) 被害回復のために要請した費用 二万一〇〇八円

前記(一)(3)(ロ)に同じ。

(ハ) 弁護士費用 六〇万円

前記(一)(3)(ハ)に同じ。

(5) よつて、原告は被告大矢、同牛沢、同永田に対し、連帯して、損害金二二〇万五二〇二円及びこれに対する昭和四八年一一月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(一)  主位的請求原因に対する認否

(1) 被告大矢、同牛沢、同崔、同野呂、同宇山、同五月女(以下被告大矢らということがある。)の認否

(イ) 請求原因(1)(イ)の事実のうち、センターが昭和四四年一二月以前からマンシヨン経営の宣伝をしたこと、被告中村らが本件当時いずれもセンターの第一営業部員であつたこと及び原告がセンターとの間にその主張の日に主張のような内容のマンシヨン経営契約を締結し、センターに二〇〇万円の金員を支払つたことは認め、被告中村らが本件マンシヨンについてなされる登記は仮登記であり、その順位は第一順位であると原告に確約したことは否認し、その余の事実は知らない。なお、センターは右のとおりいわゆるマンシヨン経営の宣伝はしたが、元本の返済が確実等のあたかも金銭を預かるような宣伝はしていない。

(ロ) 請求原因(1)(ロ)の事実のうち、センターが原告主張のような調査及び破産宣告を受けたことは認め、その余の事実は知らない。

(ハ) 請求原因(2)(イ)の事実のうち、本件当時被告大矢がセンターの代表取締役として業務全般を統轄していたこと及び被告牛沢がセンターの取締役総務部次長として総務及び経理を統轄していたことは認め、その余の事実は否認し、被告大矢、同牛沢、同崔に損害賠償責任があるとの主張は争う。

原告は、仮登記の順位は第一順位で元本の返済は確実であると信じたところ、実際は第一三〇番の仮登記で担保としては無意味であつたと主張するが、センターが破産した現段階では売買予約を完結して本登記とすることはできず、仮登記のままでは効力に差異は生じないのであるから、効力に差異あることを前提とする原告の本訴請求は理由がない。また、被告中村らが仮登記の順位が第一順位である旨確約したことがないことは契約書の特約欄にその旨の記載がないことからも推認でき、仮に被告中村らがその旨確約したとしても、契約書第一〇条の規定により、原告はそれを主張できないのであるから、仮登記の順位を問題とする原告の詐欺の主張は理由がない。

(ニ) 請求原因(2)(ロ)(a)の事実のうち、被告野呂、同宇山、同五月女がいずれも本件当時センターの従業員であつたことは認め、右被告らに過失があり、したがつて損害賠償責任があるとの主張は争う。

(ホ) 請求原因(2)(ロ)(b)①の事実のうち、被告中村らが本件当時いずれもセンターの従業員であつたことは認め、その余の事実は知らない。

(ヘ) 請求原因(2)(ロ)(b)②の事実のうち、被告野呂、同宇山、同五月女が本件当時原告主張のような順位にあつたことは認めるが、右被告中村らをセンターに代わつて監督する地位にあつたことは否認する。

(ト) 請求原因(3)は争う。請求原因(3)(イ)の損害の主張は、原告がマンシヨン経営契約を締結してセンターに交付した二〇〇万円の金員につき、その名目はともかく破産債権としてセンターの破産財団に届出ている以上、原告に損害はないというべきであるから失当である。同(3)(ロ)の損害は、本件不法行為と因果関係がなく失当であり、同(3)(ハ)の損害は額が不相当である。

(2) 被告中村らの認否

(イ) 請求原因(1)(イ)の事実は認める。但し、被告中村らはいずれもセンターの幹部の指示に従い、そして一つの物件に多数の投資者が競合している事実は契約締結事務がセンターの他の部門でなされた関係上、その事実を知らずに、原告を勧誘したものであるから、右被告らは詐欺の故意を失くものである。

(ロ) 請求原因(1)(ロ)の事実のうち、センターが原告主張の日に破産宣告を受けたことは認め、その余の事実は知らない。

(ハ) 請求原因(2)(ロ)(a)の事実のうち、被告中村らがいずれも本件当時センターの従業員であつたことは認める。被告中村らに過失があり、したがつて損害賠償責任があるとの主張は争う。

原告は、本件以前にセンターと同業の訴外日本コーポ株式会社のマンシヨン経営(多数の投資者が競合していたもの)に六〇〇万円を投資し、そいうちの二〇〇万円を本件のマンシヨン経営に振り向けたものであつて、本件においても一つの物件に多数の投資者が競合していることを予め知つていたのであるから、原告は何ら錯誤に陥つておらず、原告の主張は失当である。

(ニ) 請求原因(2)(ロ)(b)①のうち、被告中村らが原告主張のような注意義務を負担していたことは認めるが、被告中村らに故意または過失があり、したがつて損害賠償責任があるとの主張は争う。

(3) 被告永田の認否

(イ) 請求原因(1)(イ)の事実は知らない。

(ロ) 請求原因(1)(ロ)の事実のうち、センターが破産宣告を受けたことは認め、その余の事実は知らない。

(ハ) 請求原因(2)(ロ)(b)②のうち、被告永田が本件当時センターの取締役であつたことは認め、その余の主張は争う。

(二)  予備的請求原因に対する認否

(1) 被告大矢、同牛沢の認否

(イ) 請求原因(1)の事実は認める。

(ロ) 請求原因(2)(イ)の事実のうち、センターがマンシヨン経営の宣伝をしたことは認める。但し、元本確実等のあたかも金銭を預かるような宣伝をしたことはない。

(ハ) 請求原因(2)(ロ)は認める。

(ニ) 請求原因(2)(ハ)の事実のうち、後述するマンシヨン経営のいわゆる青田売の一時的、過渡的現象として一つの物件に多数の投資者の仮登記がなされることがあつたことは認め、その余の事実は否認する。

(ホ) 請求原因(3)(イ)は否認する。センターは、センター名義の不動産について一件の例外を除いて抵当権の設定等担保の目的に供したことはなく、またマンシヨン分譲等による粗利益四億三四〇〇万円以上に対し、マンシヨン経営の契約金のうち物件の価格を超えるのは四億一五〇〇万円にすぎず、バランスシートは健全でいずれの観点よりするも、センターの経営は放漫経営ではないといわなければならない。

(ヘ) 請求原因(3)(ロ)は否認する。

(ト) 請求原因(4)に対する認否は前記(一)(1)(ト)に同じ。

(2) 被告永田の認否

(イ) 請求原因(1)の事実のうち、被告永田がセンターの業務の執行にあたつていたとの点は否認し、その余の事実は認める。

(ロ) 請求原因(2)の事実のうち、センターが破産宣告を受けたことは認め、その余の事実は知らない。

(ハ) 請求原因(3)は否認する。被告永田は、非常勤の取締役であるから、他の取締役の不法行為を監視し、これを防止すべき義務はない。

三、被告の主張(被告大矢ら)

(一)  マンシヨン経営のいわゆる青田売について

原告は、センターはマンシヨン共同経営と称し、マンシヨンの一室に多数の仮登記をする方法を利用して、多数の投資者を募集し、マンシヨンの市場価格の何倍にも相当する出資金を集めたと主張するが、右はマンシヨン経営のいわば青田売とでも称する営業形態における一時的、過渡的現象にすぎず、原告の主張するような詐欺行為ではない。すなわち、投資者よりマンシヨン経営の申込みがあり、それに見合うマンシヨンの一室がない場合において、建設中のマンシヨンが完成するまでの間、一時的に右の需要に応ずるため、現にセンターが所有するマンシヨンの一室を仮の目的物件と定めて契約を締結することが行われた。これは、マンシヨン経営のいわば青田売とでも称すべき営業形態であり、その過程で投資者が物件を特定しないため一つの物件に集中し、多数の仮登記がなされるという事態も生じたが、本来のマンシヨンが建築されるに従つて投資者は本来の目的物件に移され、右のような状態は解消されることが予定されていたのであるから、これをもつて詐欺行為とする原告の主張は失当である。

(二)  過失相殺

原告は、原告の住所との地理的関係及び契約締結までの時間的余裕からみて容易に可能であつたにもかかわらず、本件マンシヨンの検分及び登記簿の閲覧もせずに本件マンシヨン経営契約を締結したものであり、原告は不動産の取引につき普通人が払うべき注意を欠いていたというべきで、損害額の算定にあたり斟酌されるべきである。また、原告は本件前に訴外日本建設協会と同様の契約を締結したことがあり、この点も斟酌されるべきである。

(三)  仮に被告野呂、同宇山、同五月女がいわゆる代監督者にあたるとしても、同被告らは被告中村らの監督に必要な注意を尽したものである。

四、被告らの主張に対する反論

(一)  マンシヨン経営のいわゆる青田売の主張について

センターは、投資者を信用させるために、新たにマンシヨンの一室を購入してそれに多数の仮登記を経由し、投資者を誤魔化すためにマンシヨンからの家賃収益がないのに投資者に家賃収益として金員を支払つていたのであるから、被告大矢らのいわゆる青田売の主張は失当である。また、青田売については原告に対し何らの説明もなかつた。

(二)  過失相殺の主張について

本件は被告らの積極的な詐欺行為により発生した損害の賠償を請求するものであるから、過失相殺の制度の趣旨に照らし、仮に原告に多少の過失があつたとしても、損害の算定につきこれを斟酌すべきではない。

第三  証拠<略>

理由

第一被告大矢らに対する請求について

一(一)  主位的請求原因(1)(イ)の事実のうち、センターが昭和四四年一二月以前からマンシヨン経営の宣伝をしたこと、被告中村らが本件当時いずれもセンターの第一営業部員であつたこと及び原告がセンターとの間に、昭和四五年二月一九日、本件マンシヨンについて原告は二〇〇万円を契約金として支払い、賃料として一か月二万八〇〇〇円を受け取る旨のマンシヨン経営契約を締結し、センターに二〇〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

(二)  右の当事者間に争いのない事実と<証拠>を総合すると、主位的請求原因(1)(イ)の事実を認めることができ、被告中村弘道、同河口洋一郎各本人尋問の結果中右認定に反する部分は原告本人尋問の結果に照らすと信用できず、また、前記甲第一号証の特約欄が空白であることは、原告と被告片瀬、同河口との間で仮登記の順位を第一審にする旨の合意が成立したとの右認定と矛盾するものではなく、ほかには右認定を覆すに足りる証拠はない。

二(一)  主位的請求原因(1)(ロ)の事実のうち、センターが昭和四五年五月詐欺等の容疑で大阪府警の捜査を受けたこと、及び同年七月八日東京地方裁判所において破産宣言を受けたことは、当事者間に争いがない。

(二) 右の当事者間に争いのない事実と<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると、本件マンシヨンについては本件マンシヨンを目的物件とするマンシヨン経営の投資者が一三七名おり、それぞれ本件マンシヨンについて所有権移転請求権仮登記を経由していること(原告の仮登記の順位は第一三〇番であつた。)、右の一三七名の投資者の投資した元本の合計額は九七三五万円に達すること、本件マンシヨンの価格はせいぜい五〇〇万円程度にすぎないこと、本件マンシヨンのほかにもセンター所有のマンシヨンの一室に多数の投資者の投資が競合し、その投資した元本の合計額が当該物件の価格をはるかに上廻つている事例が存在したこと、センターは右のマンシヨン経営の営業等を詐欺等に問われ、昭和四五年五月大阪府警の捜査を受けたこと、そして同年七月八日東京地方裁判所において破産宣告を受けたこと(この破産宣告の事実が当事者間に争いないことは前記のとおりである。)等の事実を認めることができ、以下に排斥する証拠のほか右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三) 被告大矢らは、本件マンシヨンに多数の投資者が集中し、多数の仮登記がなされたのは、当時センターにおいてはマンシヨン経営のいわゆる青田売という営業形態がとられ、しかも投資者が物件を特定しないためセンターにおいて任意に物件を割り当てた場合があつたために生じた一時的、過渡的な現象であつて、本来の目的物件の完成次第投資者は本来の物件にマンシヨン経営或いはマンシヨン分譲として移行する予定となつていたのであるから、投資元本合計額が本件マンシヨンの価格を超過するの一事をもつて前記のマンシヨン経営の説明が虚偽の説明であるということは失当であると主張し、被告大矢忠、同牛沢義人各本人尋問の結果中には右主張に副う部分があるが、前記甲第一号証の記載から右のマンシヨン経営のいわゆる青田売がなされるものであるという法律関係をうかがうことはできないこと、また、前掲各証拠により認められる本件マンシヨンの投資者はいずれも小口の投資者であつて、マンシヨン分譲等に移行する可能性のない投資者であること、多数の投資者に対し、センターが現実に転借人から取得しうる賃料額をはるかに上廻る賃料を支払つていたことについて合理的説明がつかないこと(この点につき、被告大矢忠本人尋問の結果中には右は賃料の支払という形でマンシヨン分譲による利益の還元を図つたものである旨の供述があるが、前記のとおり本件マンシヨンの投資者の殆んどはマンシヨン分譲に移行する可能性のないものであることに照らすと、右の供述部分は信用できない。)等の事実に照らして考えると、右の各供述部分は容易に信用することはできない。

また、被告大矢らはマンシヨン分譲による粗利益等を考慮したセンター全体としてのバランス・シートを考えれば、元本返済が不確実であるということはできない、と主張するかの如くであるが、右の主張を認めるに足りる証拠はない。

(四) そうすると、原告は前記一のとおり、本件マンシヨンについて仮登記をしておけば元本は安全であるとの説明を信じて本件マンシヨン経営契約を締結したが、右(二)の認定事実によれば、本件マンシヨンの価格はせいぜい五〇〇万円程度であるにもかかわらず、本件マンシヨンを担保の目的物件とする投資者の元本合計は九〇〇〇万円を超えるのであるから、本件マンシヨンを売却することによつて元本を回収することは到底不可能であり、右の説明は結局虚偽の説明であつたといわざるをえない。

三そこで、被告大矢らの責任について判断する。

(一)  被告大矢、同牛沢、同崔の責任について

(1) 主位的請求原因(2)(イ)の事実のうち、本件当時被告大矢がセンターの代表取締役として業務全般を統轄していたこと及び被告牛沢が取締役総務次長として総務及び経理を統轄していたことは当事者間に争いがない。

(2)  右の当事者間に争いのない事実と<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると、被告大矢は昭和四三年九月にセンターに入社し、同四四年一月には代表取締役、同年五月ころには社長に就任し、本件当時も業務全般を統轄していたこと、被告牛沢は昭和四三年一月にセンターに入社し、同四四年四月には取締役総務部次長に就任し、本件当時も総務及び経理を統轄していたこと、被告崔は、センターの正式な役員または従業員ではなかつたが、センターの設立の際から関与していたセンターの大株主で、センターの業務のすべてに何らかの形で関与し指示を与えていたこと、前記一のチラシ、週刊紙等によるマンシヨン経営の宣伝は審議のうえ最終的には被告大矢が実施等の決定をしたこと、センターにおいては営業方針等の重要事項は事実上被告大矢、同牛沢、同崔の三名が決定し、部長以上或いは課長以上の社員で構成されるいわゆる幹部会は右の決定の伝達を協議する役割を担つていたものにすぎなかつたこと、被告大矢、同崔は幹部会の席上或いは朝礼においてマンシヨン経営の勧誘等を強化するよう激励したこと、被告崔はセンター設立前に訴外山下重光とともに同種の会社でマンシヨン経営等の営業をした経験があること、センターから中間会社を通して被告崔が主宰していた訴外五城観光に九〇〇〇万円を超える金員が流れていること、昭和四五年五月センターが捜査を受けた際、被告大矢は被告永田から一つの物件に一〇〇を超える仮登記をするなどは詐欺ではないかと結問され、詐欺であることを認めるような態度を示したこと等の事実を認めることができる。

(3)  右の認定事実と前記一及び二の認定事実を総合すれば、被告大矢、同牛沢、同崔の三名は、本件当時センターを事実上支配していたもので、共謀のうえ、マンシヨン経営という営業形態を利用して投資者から金員を詐取することを計画し、元本の返済が確実でないにもかかわらず、確実であるかのようにチラシ、週刊誌等で宣伝し、また従業員に説明させて、原告をその旨錯誤に陥れたうえ、センターとのマンシヨン経営契約を締結せしめ、契約金の名目で二〇〇万円の金員を詐取した、との事実を推認することができ、被告大矢忠、同牛沢義人、同崔敏圭各本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし容易に信用することができず、ほかには右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  被告野呂、同宇山、同五月女の責任について

(1) 主位的請求原因(2)(ロ)(a)の事実のうち、被告野呂、同宇山、同五月女が本件当時いずれもセンターの従業員であつたことは当事者間に争いがない。原告は、被告野呂、同宇山、同五月女はマンシヨン経営の事務を担当するセンターの従業員として被告大矢、同牛沢、同崔の前記詐欺の意図を看破し、これを防止すべきであつたのにこれを怠り被告大矢、同牛沢、同崔の詐欺に加担したと主張し、被告五月女博本人尋問の結果中には被告五月女が被告大矢に対しマンシヨン経営を整理するよう進言した旨の供述部分があるが、右は小口のマンシヨン経営は営業上不利であることを理由とする提言とみるべきで、右供述をもつて直ちに同被告が詐欺の意図に気づいていたとみることはできず、ほかには被告野呂、同宇山、同五月女が右詐欺の意図を知つていたこと或いは知ることができる状態にあつたことを認めるに足りる証拠はないから、結局本件全証拠によつても被告野呂、同宇山、同五月女の過失を認めることはできない。したがって、原告主張の(2)(ロ)(a)は理由がないものといわなければならない。

(2) そこで、主位的請求原因(2)(ロ)(b)②の点について判断することとするが、まず前提となる被告中村らの不法行為の成否について判断する。

(イ) 主位的請求原因(2)(ロ)(b)①の事実のうち、被告中村らが本件当時いずれもセンターの従業員であつたことは当事者間に争いがない。被告中村弘道、同河口洋一郎各本人尋問の結果によれば、被告中村らは本件当時センターにおいて不動産の売買、仲介等の業務に従事していたことを認めることができ、したがつて被告中村らは取引の相手方に対し取引の重要事項を説明し、不当或いは虚偽の説明、勧誘を避止すべき注意義務があつたというべきであり、被告中村らが原告に対し客観的には虚偽の説明をしたことは前記一及び二において認定したとおりである。

(ロ) そこで、更に被告中村らの故意または過失の有無について検討すると、被告中共村弘道、同河口洋一郎各本人尋問の結果によれば、被告中村らのマンシヨン経営に関する業務における主たる仕事は投資者の勧誘であつたこと、本件当時センターにおいてはマンシヨン経営契約が締結される際には目的物件については総務課(或いは契約センター)に連絡して物件の指示を仰ぐか、物件未特定のまま締結事務を総務課(或いは契約センター)に送付するという体制となつていたこと、契約書も総務課において作成されていたこと、被告中村らは本件マンシヨンに多数の投資者が競合していることを知らなかつたこと、被告中村らのセンターにおける地位に鑑みると、本件マンシヨンに多数の投資者が競合していることを知得することを期待することができなかつたものであること等の事実を認めることができ、被告牛沢義人、同野呂敏美各本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、ほかには右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすれば、前記一、二認定の被告中村らの行為によつて原告が損害を被るという結果の発生を知りうべきことを被告中村らが予見することができなかつたものといわなければならない。したがつて、被告中村らが原告に対し前記一及び二に認定したような虚偽の説明をしたことにつき、被告中村らに故意または過失はないというべきである。

(ハ) そうすると、原告の被告野呂、同宇山、同五月女に対する主位的請求原因(2)(ロ)(b)②の請求も、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

第二被告中村らに対する請求について

一主位的請求原因(1)(イ)の事実は当事者間に争いがない。

二(一)  主位的請求原因(1)(ロ)の事実のうち、センターが昭和四五年七日八日東京地方裁判所において破産宣告を受けたことは当事者間に争いがない。

(二)  主位的請求原因(1)(ロ)についてのその余の説示は、前記第一の二(二)及び(四)に説示したところと同一である(但し、甲第五号証及び第六号証の一、二は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める。)。

三そこで、まず主位的請求原因(2)(ロ)(a)の被告中村らの責任について判断する。

主位的請求原因(2)(ロ)(a)の事実のうち、被告中村らが本件当時いずれもセンターの従業員であつたことは当事者間に争いがない。原告は、被告中村らはマンシヨン経営の事務を担当するセンターの従業員として被告大矢、同牛沢、同崔の前記詐欺の意図を看破し、これを防止すべきであつたのにこれを怠り被告大矢、同牛沢、同崔の詐欺に加担したと主張するが、被告中村らが右詐欺の意図を知つていたこと或いは知ることができる状態にあつたことを認めるに足りる証拠はなく、結局本件全証拠によつても被告中村らの過失を認めることはできない。

四次に、主位的請求原因(2)(ロ)(b)①の被告中村らの責任について判断する。

(一)  主位的請求原因(2)(ロ)(b)①の事実のうち、被告中村らが、宅地建物取引業者または宅地建物取引主任者ではないが、センターの従業員として不動産の売買、仲介等を現実に取り扱つていたものであるから、宅地建物取引業法及び不当景品類及び不当表示防止法の趣旨に従い、取引の重要事項の説明、不当表示の避止等の高度の注意義務を負担していたことは、当事者間に争いがない。

(二)(1)  被告中村らが原告に対し、本件マンシヨン経営契約締結に際して客観的には虚偽の説明をしたことは前記一及び二において認定したとおりである。

(2)  被告中村らに右の客観的には虚偽の説明をするについて、故意または過失を認めることができないことについての説示は、前記第一の三(二)(2)(ロ)に説示したところと同一である。

五そうすると、原告の被告中村らに対する請求はいずれも理由がない。

第三被告永田に対する請求について

一主位的請求について

(一)  <証拠>を総合すれば、請求原因(1)(イ)の事実を認めることができ、被告中村弘道、同河口洋一郎各本人尋問の結果中右認定に反する部分は原告本人尋問の結果に照らすと信用できず、また、前記甲第一号証の特約欄が空白であることは、原告と被告片瀬、同河口との間で仮登記の順位を第一番にする旨の合意が成立したとの右認定と矛盾するものではなく、ほかには右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)(1)  請求原因(1)(ロ)の事実のうち、センターが破産宣告を受けた事実は当事者間に争いがない。

(2)  請求原因(1)(ロ)についてその余の説示は、前記第一の二(二)及び(四)に説示したところと同一である。(但し甲第五号証及び第六号証の一、二は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める。)

(三)  そこで、請求原因(2)(ロ)(b)②の被告永田の責任について判断することとするが、まず前提となる被告中村らの不法行為の成否について検討する。

(1) 被告中村らの不法行為の成立を認めることができないことについての説示は、前記第二(そこで引用する第一の三(二)(2)(イ)及び(ロ))に説示したところと同一である。(但し、被告中村らが本件当時いずれもセンターの従業員であつたことは、被告中村弘道、同河口洋一郎各本人尋問の結果によりこれを認める。)

(2) そうすると、原告の被告永田に対する請求原因(2)(ロ)(b)②の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

(四)  したがつて、原告の被告永田に対する主位的請求は理理がない。

二予備的請求について

(一)  まず、請求原因(二)(3)(ロ)のいわゆる監視義務違反の点について判断する。

被告永田が本件当時センターの取締役であつたことは当事者間に争いがないところ、株式会社の取締役は、会社に対し、代表取締役が行う業務執行につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、或いは招集することを求め、取締役会を通じての業務執行が適正に行われるようにする職責があるといわなければならない。そこで、本件における被告永田の右義務違反の有無につき検討することとする。

(二)  本件当時センターの代表取締役であつた被告大矢が被告牛沢、同崔と共謀のうえ、元本の返済が確実でないのに確実である旨虚偽の事実を告知し、その旨原告を誤信せしめて本件マンシヨン経営契約を締結せしめ、契約金として二〇〇万円を詐取し、これにつき民法七〇九条の責任を負うことは前記第一の三(一)において認定したところであるが、被告大矢の右行為は、他面、株式会社の代表取締役がその職務を行うにつき悪意で第三者に損害を与えた行為であるとも評価できるものである。

(三)  そして、被告永田節本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)によれば、被告永田は被告大矢の依頼で銀行に融資の相談をしたところ、銀行からセンターは銀行類似の行為をしているとの理由で融資を断られたこと、被告永田はセンターのいわゆる幹部会に出席したことはなく、また取締役会を自ら招集し、或いは招集を求めたことのないこと、センターが大阪府警の捜査を受けると直ちに取締役を辞任したこと等の事実を認めることができ、右の認定事実よりすれば、被告永田は被告大矢の右(二)の違法な職務執行を知りえたにもかかわらず漫然とこれを看過し、また取締役会の招集等も何ら行うことなく、警察の捜査により被告大矢の違法な職務執行が明らかになると直ちに辞任したものであるから、被告永田は右(一)の取締役の会社に対する職責を著しく懈怠したものといわざるをえない。被告永田節本人尋問の結果中右認定に反する部分は容易に信用できず、ほかには右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実から判断すれば、被告永田が大矢の違法な職務執行を防止しなかつたため、原告はセンターとの間に本件マンシヨン経営契約を締結し、その結果後記のような損害を被つたものであるといわなければならず、したがつて、被告永田は、商法二六六条ノ三により被告大矢と連帯して原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

(四)  被告永田は、同被告は非常勤の取締役であるから他の取締役の不法行為を防止すべき義務はないと主張するが、非常勤であつても取締役である以上取締役会を自ら招集し、或は招集することを求める権限を有することに変わりはないのであるから、被告永田の右主張は理由がない。

第四損害について

一(一)  原告がマンシヨン経営契約の契約金として二〇〇万円の金員を出捐し、同額の損害を被つたことはすてに認定したとおりである。この点につき、被告大矢らは、原告が出捐した二〇〇万円の金員については、その名目はともかくセンターに対する破産債権として届出ている以上、原告に損害はないというべきであると主張するが、原告が現にセンターから右金員の支払を受けた場合には格別、そうでないかぎり、センターに対して金員の返還請求権を有し、破産債権として届出ているとの一事をもつて直ちに原告に損害がないということはできないから、被告大矢らの右主張は失当である(最高裁判所昭和三五年(オ)第一四五八号、同三八年八月八日第一小法廷判決、民集一七巻六号八三三頁参照)。

(二)  原告がセンターより賃料名義で合計六万五三二〇円の支払を受けたこと、破産財団より配当金として合計三七万六二〇六円の支払を受けたこと及び最終配当として破産財団に対し三万九六〇〇円の請求権を有すること、そして右をいずれも損害の回復として右(一)の損害金から控除することは原告の自認するところであるから、これを控除するとその残額は一五一万八八七四円となる。(なお予備的請求においては、センターから賃料名義で支払を受けた分について控除していないが、右は実質的には契約金の一部払戻とみるべきであるから、損害の回復として控除すべきである。)

二<証拠>によれば、原告は他の被害者とともに損害回復のためにセンター被害者同盟を結成し、同盟に対し、事務委託費として五一六八円、破産申立を委任した弁護士に対する報酬として一万五八四〇円合計二万一〇〇八円を支払つたことを認めることができるが、右の出捐は被告大矢、牛沢、同崔の詐欺ないし被告永田の任務懈怠と相当因果関係にある損害ということはできず、かつ、右の損害について右の各被告がその発生すべき事情を知り、または知ることができるという点については原告の主張・立証しないところである。

三原告が本訴の遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任したことは記録上明らかであり、その訴訟委任につき弁護士費用として六〇万円を支払う旨約したことは原告本人尋問の結果により認めることができる。そして、本件の事案の内容等の事情に鑑みると、相当因果関係ある損害として被告大矢、同牛沢、同崔、同永田が負担すべき弁護士費用としては右認容額の約一割に相当する一五万円が相当であると判断する。

四最後に、被告大矢らは過失相殺を主張し、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件マンシヨン経営契約を締結するにあたり、本件マンシヨンの検分及び登記簿の閲覧を行わなかつた事実が認められ、右は不動産に関する取引を行う者として軽率のそしりを免れない。しかしながら、一方前記認定の被告大矢、同牛沢、同崔の詐欺及び被告永田の任務懈怠の違法性の程度に照らして考えると、右の程度の原告の過失は損害額の算定においてこれを斟酌すべきではないというべきであり、被告大矢らの右主張は失当である。

第五結論

以上によれば、原告の本訴請求は被告大矢、同牛沢、同催、同永田に対し、連帯して(被告永田は商法二六六条ノ三第一項の規定により被告大矢と連帯して責任を負い、また被告大矢は民法七一九条により被告牛沢、同催と連帯して責任を負つているから、結局右被告ら全員が連帯して責任を負うべきこととなる。)、損害金一六六万八八七四円、及びそのうち前記第五の三の弁護士費用一五万円を控除した一五一万八八七四円に対する本件不法行為後の原告の本件口頭弁論における請求拡張の意思表示が被告らに到達した日(被告らのうち最後の者に対し到達した日)の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年一一月三日から、弁護士費用一五万円については本判決確定の日から(右の弁護士費用に関しては、その支払義務がいつ履行され、弁済期がいつ到来するかについては、これを認めるに足りる証拠はないから、その部分に対する遅延損害金の請求は理由がない。しかしながら、委任事務については通常その事務を履行した日に報酬を請求しうるものと解されるから、少なくとも本判決確定とともに弁済期が到来すると解するのが相当であり、その限度で右の弁護士費用に対する遅延損害金の請求は理由がある。)、それぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九三条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(鈴木重信 高橋金次郎 志田洋)

物件目録

一棟の建物の表示

所在 東京都杉並区荻窪五丁目一八六番地二

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根七階建

床面積 一階 114.34平方メートル

二階 116.64平方メートル

三階 116.64平方メートル

四階 116.64平方メートル

五階 102.06平方メートル

六階 87.48平方メートル

七階 80.19平方メートル

専有部分の表示

家屋番号 荻窪五丁目一八六番二の三

建物番号 二〇二

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 二階部分 28.96平方メートル

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